マラソン練習について

 私がマラソンに興味を持った、走ってみたいと思ったのは1993年の高校1年生の時。しかし、当時学校の練習で16000mのペース走が最長だった私は、はたして大人になって42kmも走れるのだろうかという不安も同時に思ったものです。

■男子マラソン低迷期と早田俊幸選手
 1993年は、前年のバルセロナオリンピックが終わり、日本男子マラソンが低迷期に差し掛かる頃で、新しいスター選手の台頭を待ち始めた時代でもありました。何度か触れていますが、その当時に日本のマラソンを引っ張ることが期待された早田俊幸選手に、私は自然と注目し、応援するようになっていました。

 同年に発刊された陸上競技マガジンに「男子マラソン特別企画・次代を担うホープたち」という連載があったのですが、それに早田選手の特集記事が掲載されており、練習内容と早田選手を指導していた伊藤国光監督のマラソンに関する練習方法論も併せて記載されていました。まだ当時マラソンの練習内容を全く知らなかった私ですが、応援している早田選手の練習内容とのことで、食い入るように記事を読み返していました。

 しかしなかなか結果が出ない日本男子マラソン界。早田選手もなかなか思うような走りが出来ていなかったであろうレースが続いていました。私はそれを見て「マラソンは難しい種目なのかな。」と思いましたが、「でもそれだけにやりがいはありそうだな。」とも思っていました。

■そのままコピーするのは難しい
 やがて私は大学生になった頃から、具体的にマラソンについての練習を考えるようになりました。私の通っていた大学は弱小校だった上に専門の指導者もいなかったので、マラソン用の練習は基本的には独学で得た知識を元に組まざるを得ませんでした。そこで上記の陸上競技マガジンなどに記載されている記事や、他大学の知人から聞いた話などを参考にしていました。

 早田選手の練習内容は、後に知った往年の名ランナーである宗茂、宗猛兄弟や瀬古俊彦選手の練習内容と比べても遜色のない、凄まじい内容だったと思います。早田選手の場合は設定よりも速いペースでこなしていたため、余計にそう見えました。伊藤監督は「走りすぎ」と表現していましたが、そっくりそのまま同じ内容をやることはまず私の競技レベルから見ても無理だなというのが正直な感想でした。実際に距離だけでも同じものをやってみようと試みたのですが、疲労が抜けずに髄膜炎になってしまい2週間入院するという事態に陥りました。

 そこで、まずは考えを変えて、「内容をそのままコピーするのではなく、練習のコンセプトを自分のレベルに当てはめて落とし込んでみる」ことを意識し、自分のレベルにあったタイム設定や距離、本数といった内容を考えることにしました。

■犬伏孝行選手の出現
 そんな中、大学3年時にベルリンマラソンで大塚製薬の犬伏孝行選手が日本新を出したというニュースが飛び込んできました。そしてほどなくして、ありがたいことに犬伏選手のベルリンに向けた全練習メニューと、指導する河野匡監督のマラソン練習方法論が陸上競技マガジンに掲載されました。

 早速、どんな内容の練習だったのか、そして早田選手の内容とはどのような違いがあるのかを注目してみました。

 そこで目にしたのは河野監督の「マラソンはがんばったらダメ」という点。大きく休むこともなければ、極端な強弱をつけることもしない。例を挙げると、練習でポイントになるであろう距離走も40kmが最長で、ペースも余裕を持たせて終わる。ただしその翌日に1000m×10〜15本のインターバルトレーニングをマラソンのレースペースで行う(犬伏選手だと3分00秒あたりがベース)、という一つの形が見て取れました。

 距離走のペースを落とすことで翌日にインターバルをきっちりこなす余裕が生まれる。余裕を持ってこなすこと、がポイントになっていました。ちなみに早田選手は多い時は60km走を取り入れています。

 宗兄弟、瀬古選手、早田選手のマラソン練習内容を追っていた私は、こうした犬伏選手の練習内容は一つ思考を変えるヒントになりました。身体も出来ていない私が練習を継続させるにはこうしたやり方のほうが合っているのではないか、そう思いました。もちろんいくらペースを落としているからといっても、40km走の翌日に1000mのインターバルをレースペースでこなせるのも凄いことで、そこが犬伏選手の強さでもあると思います。

■テーマは余裕と継続
 どんな練習内容もこなせなければ意味がありません。マラソン練習を3ヶ月+調整10日の合計100日とした場合、いかに期間中に練習を継続して取り組めるか、が大事になります。そう考えると必ずしもオールアウトする練習のみが正しいことではないという考えを、私は犬伏選手の練習を参考にして自分の中に構築しました。

 なお、宗茂さんや伊藤さんも「余裕を持ってこなすこと」と「走りすぎの危険性」という点は幾つかの記事や書籍で触れています。

 私は上記の通り、マラソン練習をしようとしてあえなく入院している程度の選手なので、今回書いている内容は、私自身の経験に裏打ちされている話ではありません。ちなみに私が初めてマラソンを走ったのは26歳の時と、かなり遅くなってしまいました。その時の練習では、40kmではなく30kmまでしか距離走はしていません。

 それでも40kmを「余裕を持って」走り、スピード練習(マラソンのレースペース)もこなせる。そしてそれを何度も繰り返し継続することができる選手は心身共にマラソンへの適性があるのかなと思います。


もどる