スピードランナー

 いよいよ東京マラソンが迫ってきました。私が注目しているのは多くの皆さんがそうかと思いますが、設楽悠太選手(HONDA)。ウィルソン・キプサング選手たちがどのような記録を出すのかも興味はありますが、やはり日本人選手がどこまで戦えるかに注目しています。

 設楽悠太選手のマラソンへのアプローチ、言動は刺激的です。「僕は40km走をやりませんが、効率のいい練習をすれば結果はついてくると思います。距離を踏まなければいけない時代ではありません。」という旨のコメントは随所で聞いています。何より世界との勝負を挑む姿勢が見ていて気持ちいいです。先週の東京マラソン直前番組では「日本人は前半抑えて後半ペースアップを図る選手が多いですが、それでは勝ち目はない。」と言い切っていました。

 これまでの日本人選手は、開きすぎた世界との差の影響もあって、外国人選手のハイペースは度外視し、日本人選手の中でトップを狙う姿勢が大半だったと思います。私が読んだ「日本のマラソンはなぜダメになったか」(著:折山淑美)の中でも川内優輝選手の巻末インタビューにはこう記してありました。「金メダルは無理でも、後半落ちてくる選手を拾って銅メダルを取ることは可能。」。世界を経験している選手だけに、私が最初この本を読んだ時は重い言葉でした。

 ですが、設楽悠太選手は「勝ちに行く」、「勝負する」という姿勢を明確に打ち出しています。ハーフマラソン日本記録保持者。持ち前の前半からハイペースで突っ込む積極的な走りは駅伝等のレースでも見ていて爽快感があります。前半から外国人勢に怯まず付いていく。そこにはスピードランナーの性みたいなものを感じます。そしてそこには一抹の不安も。前回の東京マラソンでもそうでしたが、40km走はやらないと豪語する中、どこまでスピードで持ちこたえられるか。

 私が学生時代憧れたこちらもまた駅伝でハンターの異名を取ったスピードランナーの早田俊幸選手は、その多くのレースで30km過ぎに苦しめられていましたが、設楽悠太選手にも同様な「危うさ」を感じます。しかしその危うさというのは、前半から先頭についていく中で「いけるかもしれない」という期待と表裏一体でもあります。設楽悠太選手や早田選手の走りは見ていてぞくぞくするものがあります。自らのスピードを恃む(たのむ)ことはあるかもしれません。スピードランナー、私はその響きに憧れを持っていました。今回、久しぶりに日本人でも屈指のスピードランナーが挑戦します。私の感じる危うさが杞憂なものになる快走を見せるか、楽しみです。


もどる