日本のマラソンを取り巻く環境

オリンピックが終わりました。色々な競技、種目を楽しみましたが、中でもやはりマラソンは気になる種目でした。結果で言えば日本勢は率直に言って惨敗でした。それはわかっていることでしたが。生意気なことを言わせていただくと、今の日本のマラソンを取り巻く環境が、日本選手を世界から遠ざけてしまっていると思うからです。

■外国人選手の締め出し
日本には、高校、大学、実業団とケニアなどの外国人選手がいます。彼らを抱えるチームからは、「外国人選手から生活態度や姿勢等、学ぶことは多い。」というコメントが散見されます。決して外国人選手頼みのチーム作りではなく、外国人選手がいることで日本人選手も意識の面でプラスになり、相乗効果が期待できる。そういうメリットがあると聞きますし、私もそれは思います。

しかし、試合になるとちょっと違うんです。高校や実業団の駅伝では、外国人留学生が最長区間を走ることができません。大学生の駅伝くらいじゃないでしょうか、留学生がエース区間を走れるのは。実業団駅伝の「インターナショナル区間」というネーミング、私は大嫌いです。駅伝のみならず、例えばトラックの日本選手権。これもいつしか外国人選手は締め出されています。私の記憶では1990年代はアロイス・ニジガマ選手等が走っていたと思いますが、いつしか「トラックや駅伝で外国人選手を使うのは卑怯」という島国根性に似た世論が出てきていたのを覚えています。留学生ランナーのパイオニア的存在だったダニエル・ジェンガ選手が、様々なバッシングを受けたのでしょう、仙台育英高校時代にクロスカントリーの大会後のインタビューで泣いていたのを覚えています。

■井の中の蛙
こうしていつしか国内トラックレースや駅伝で、外国人選手の活躍の場は限られてしまいました。日本人選手がどう思っているのかはそれぞれかもしれませんが、少なくとも仙台育英のジュリアス・ギタヒ選手に都大路で果敢にくらいついた浜松商業の古田哲弘選手の走りを私は忘れません。その数年前には十日町高校の小林雅幸選手は留学生ランナーを抑えて1区で区間賞を獲得しています。古田選手は「外国人だからと言って特別だとは思わない」とインタビューで答えていましたし、早稲田大学の渡辺康幸選手が山梨学院大学のステファン・マヤカ選手との箱根での対決を避けたいと言う話しは聞いたことがありません。ひょっとしたら当の選手たちよりも、周りの環境、もっと言うとお偉いさん方の方が過剰に反応しているだけなのではないでしょうか、と邪推します。

ともかく、こうして外国人選手との戦いを避けて、日本国内で日本人だけでレースをさせて、それで世界に挑む、世界に伍して戦う等とは、到底なしえない話ではないかと思います。駅伝がマラソンを駄目にしているという意見もありますが、私はそうは思いません。不器用な選手は両立が難しいと感じる人もいるかもしれませんが、そんなことよりも駅伝にしろトラックにしろ、外国人選手との勝負を遠ざけた結果が、日本人同士での争いのみに終始してしまい、世界との距離を遠ざけていると思います。

■スピード化に対して
世界のマラソンのタイムは飛躍的に伸びている中、日本最高記録はなかなか破られていません。日本人選手も高校、大学と若い世代の5000m、10000m、ハーフマラソンのタイムは伸びています。それだけに、その先の勝負を考えると、今の日本の長距離選手を取り巻く環境はとてももったいないと思います。東洋大学の酒井監督は、何かのインタビューで「うちは世界を見据えて選手には前半から突っ込むレースを徹底させている」とおっしゃっていましたが、現場の指導者でもそういう気概をお持ちの方はいらっしゃるわけです。なのに、勝負する場すら削られる、生半可なものになってしまっている。非常にもったいない話だと私は思います。

■開かれた日本陸上界を
選手が悪いのではありません。外国人選手と勝負を避けてきた日本長距離界の環境が良くないと思います。そりゃあ、強い外国人選手が集まれば、最初は日本人選手もいきなり太刀打ちはできないかもしれません。でも少なくとも勝負するという意識は変わってくるはずです。「高校生から速い留学生を迎え入れるのは競争が過剰になる」というお題目もありますが、そういう競争を避けていること自体がレベルアップを阻害していると思います。

今回のリオ五輪では男子の4x100mが銀メダルを獲得しました。短距離選手は外国人選手との戦いから逃げてはいなかったと思います。もちろん銀メダルを取るには何十年という歴史の積み重ねがありました。世界と日本の長距離の差はかなり開いています。すぐに挽回できるものではないと思います。ですが、現状のあり方では差は開く一方のような気もします。外国人枠や区間制限は出来る限りなくして、広く門戸を開けた日本陸上界にした方がいいのではないでしょうか。レベルの高い選手を間近で見られるのもまたいい刺激になると思います。極端な例を言えば日本の短距離界にウサイン・ボルト選手が実業団選手として加入するとします。世界のスーパースターを見る人も集まるでしょうし、日本の短距離選手も大いに刺激になると思います。ここで日本陸上界はボルト選手を遠ざけますか?


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