夏の記憶〜雨の国立と銀河系軍団〜

国立競技場やFC東京の試合に数多くの思い出はありますが、この真夏を迎えた中で記憶を呼び起こすのは、印象に残っているのは、今から10年以上前の2003年8月5日、雨の国立。FC東京の"ホーム"国立で迎え撃つ相手は当時銀河系軍団と呼ばれたレアル・マドリード。前年の2002年、日韓ワールドカップでのベッカムフィーバーを受けて、注目度はウナギ登りのこのゲーム。当時はヨーロッパのビッグクラブが日本やアジアにプロモーションを兼ねた遠征に来るというのはなかったので、この対戦カードが決まったことを知った時はびっくりしたものです。チケット取るの大変なんだろうな、と思っていたらここでFC東京のフロントがグッジョブ。年間チケットを持っているサポーターの分をなんと確保してくれていたのです。喜んで当時のコンビニ「ampm」に引き換えに行ったのを覚えています。

さて、チケットを引き換えてからは8月5日が待ち遠しくて仕方ありませんでした。それと共に燃え上がる理由もありました。相手は銀河系軍団。FC東京はただの噛ませ犬。さらに言えば、サッカーよりもレアル、レアルよりもベッカム、そんなマスコミや大衆の扱いに、東京サポーターの意地が高まらないわけがありません。当時職場のあった赤坂から、定時でダッシュして国立競技場へ。会社でも「レアル見に行くの?」と言われたので、「FC東京見に行きます!」と最大限の意地を見せて後にしました。

国立に着くと激しい雷雨の中、レアル・マドリードのカラーである白一色に染まったバックとアウェイ側スタンド。サッカーの試合で満員の国立は数えるほどしか見たことありませんが、この日は雰囲気が異様、異質でした。うまく表現できませんが、本当にこれはサッカーの試合なのか? 東京サポーターは電光掲示板付近、いつもの位置に三々五々、集ってきました。この日ほど、東京サポーターの存在が頼もしく思えた日はなかったかもしれません。中心部がレアルのユニフォームを引きちぎって気勢を上げます。スタジアムの演出もいつも通りの選手紹介を行い、You will never walk aloneまで普通に流してしまうところが東京フロントの本気を見ました。

ゲームが始まると、東京サポーターはいつも通りの応援を続けます。私はいつも以上に声を出してむきになっていたかもしれません。しかし無情にもベッカムに直接フリーキックをたたき込まれるという、一番やらせてはいけないシナリオ(大会スポンサーには非常に都合がいいでしょうが)等、結局0-3で敗れました。スタンドは試合途中でレアルファンが東京側のスタンドで「レアル・マドリー」コールをして揉め事が起こりましたが、それ以外は大きな混乱はなく終わりました。

欲を言えば1点でも取って東京ブギウギを歌いたかった。3-0というスコアは妥当な結果だったかもしれませんが、それ以上に悔しい気持ちが強かったです。ただ、この日から世界の舞台というものを、明確に意識するようになったと思います。ACL(アジア・チャンピオンズ・リーグ)、そしてそれを突破すればCWC(クラブ・ワールド・カップ)。そこではこの親善試合ではなく、公式戦としての世界との戦いが待っています。「FC東京がレアルと試合してるよ、すげー。」というレベルから、より明確に「戦う」舞台を目指す。日本のクラブでも浦和やG大阪がACLで優勝し、CWCで強豪と対戦しています。2012年、FC東京は初めてACLに出場しました。優勝はなりませんでしたが、こうして一歩ずつ東京は成長していきます。

元はベッカムやレアルに対してただの意地を張りに行ったこのゲーム。でもそこから世界を意識できるようになった。きっかけとなったのは間違いなくこのゲームだと思います。



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